カオス

60年物の団地に住んでいる。建物と建物の間に作られた公園には、団地が建てられた当初に植えられたと思われる桜や欅、楓などが今や大木となって鬱蒼と枝を繁らせている。
それだけでなく、おそらく団地の住民がこの60年間に自主的に(もしくは勝手に)自分たちの好きな植物を植えてきたようで、団地の敷地内の土のあるところにはみっしりと様々な木々や草花が生えている。
それらがこの時期になると、一斉に薄緑色の若葉を芽吹かせ、それはもう美しいのだ。それは秩序立って整えられた美しさというよりも、緑がうねったり絡まりあったりして形作られるカオスの美しさなのだけれど。
そんな具合なので、団地には定期的に植木屋さんが入って、手入れをしている。定期的というよりも、もしかしたら彼らは木々の合間に定住しているのではないかと思う。それくらい頻繁に植木屋のおじいさん達は団地の敷地内にいて、そこら中で発生しているカオスに取り組んでいる。
きっとおじいさん達は団地が建てられた60年前から木々の手入れをしてきたのだろう。まるで思い人を抱擁するかのようにして、身体を木の幹にぴたりと沿わせ、キスでもするかのように、皺の寄った顔を木の幹に近づけて、葉を刈り取っていく様は、団地の植物たちを愛おしみ、カオスたらんとする彼らの力を抱き留めているように見えるのだ。

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