甘夏チーズケーキなるものを作った。
「私、不器用ですから」と謙遜する高倉健さんに、「いやいや、私が本物の不器用ですから!」と主張したくなるほどにガサツな自分は、お菓子作りなどという繊細な作業に携わるべきではないと思ってきた。
しかし、南房総から送られてきた甘夏を食卓に置いて眺めているうちに、「私にも何か作れるかもしれない」という淡い欲望がむくむくと湧き上がってきたのだ。折しも、じろえむさんから大粒の卵が届いた。しかも、冷蔵庫には酒のつまみに常備してあるクリームチーズがある。
これは、もしかしたら、甘夏チーズケーキを作ってみよ、という不器用な神様の思し召しなのではないかと信じ込んだ私は、朝起きるなり、いそいそと甘夏の皮を剥き出した。ネットの情報を食い入るように熟読し、砂糖の分量も声に出して読み上げながら計測した。なぜなら、菓子作りは分量の正確さが命だからである。
乾物置き場の奥底から発掘された古いビスケットを細かくなるまで潰し、足りない分は、おやつ用の「きのこの山」の軸の部分を丁寧に切りとって加え、ケーキの台を作った。チーズの部分はヨーグルト、じろえむ卵、南房総の薄力粉、レモン汁、砂糖、クリームチーズを混ぜてドロドロにした。最後に、ビスケットの台の上に甘夏を並べ、チーズ液を流し込み、180度に熱したオーブンで40分焼く。
オーブンを開けて、驚いた。なんということだろう、目の前に神々しく甘夏色に輝く熱々のチーズケーキが焼き上がっているではないか!
「健さん、不器用な私にもできました!」天を仰いで呟いた。
今、艶々と光るチーズケーキを眺めながら、私は「やればできる」という陳腐な言葉を噛み締めている。ガサツで適当な私にも、ケーキが作れるのだ。私をこんな大胆な行動に駆り立てた南房総は、やはりただならぬ土地である。
もっとも、レシピに「甘夏1個」と書かれていたのを2個に増量した大胆さがどう反映されているのかはまだ確かめていないのだけれども。
(2020.4.25.)